木村硝子店の「バンビ」が大好き

2018年5月、私は2つのものに命を救われました。

1つは「名探偵コナン ゼロの執行人」。
うつ状態で身も心もボロボロだったとき、映画館でゼロの執行人を見て、降谷零の高潔さを全身に浴び、
「私ももうちょっと生き延びて頑張ってみよう…」
「あわよくば名探偵コナンという作品が終わるまでこの目で見届けよう」と、
冗談抜きで『生きる糧』となりました。
そしていまだに降谷零という人にズブズブに沼っている。

まだまだ降谷さんのことについて書きたいけれども、今回は『もう1つ』のほう。
木村硝子店「バンビ」というグラスについて。

私がバンビに出会ったのは、それこそ「ゼロの執行人」を映画館で見た帰り道。
川崎の駅ナカにある「DEAN & DELUCA」に立ち寄ったときでした。

何か目当てのものがあるわけではなく、ウインドウショッピングでふらりと立ち寄ったお店で、それはそれは素敵なグラスを見つけたのです。

商品名には、「木村硝子店 バンビ」とありました。
背が低く、薄いガラスで、ワイングラスの赤ちゃんのようなキュートなフォルム。
ワインでも、日本酒でも、ビールでも、そのほかのお酒でも、もちろんノンアルコールでも、何もかもを美味しくしてくれそうな出で立ち。

食器に一目惚れしたのは、人生で初めてでした。

サイズがいくつかありましたが、いずれも4000円前後。
100均でも食器を買えるこの時代、グラスひとつを買うには高い、と思いました。

だってこのグラス、ガラスがすっっっごく薄くて、たぶん私、洗ってるときに割っちゃうやつだよ。
こんなに可愛いのに、こんなに高くて、でも割っちゃったら当分ショックから立ち直れないよきっと。
っていうかむしろ持って帰ってるときに満員電車だったら押しつぶされて割るって。ヤバい。

…という、欲しい気持ちよりも買えない理由の方がズラズラズラッと出てきてしまって、その日は見るだけで終わってしまいました。
ゼロの執行人を見て、降谷さんかっこよかったなぁ…っていう感想だけをお土産に帰路に着きました。

それから数日経っても、「うわ、やっぱりあのときあのグラス買っとけばよかった…」という気持ちがずーーーっと心の中に残ったままでした。
次はどこで出会えるかわからないし、もしかしたら売り切れたらもう手に入らない限定のものかもしれないし、
割っちゃったらそれはショックかもしれないけれど、割れるその日まで大事に使って、お酒を美味しく飲む体験をすればいいじゃん、
人生で1回くらい4000円する食器を買ってみてもいいじゃん、
食器に一目惚れしたことなんてなかったんだから、人生の思い出にお迎えしちゃってもいいじゃん。
という思いがふつふつと湧いてきたのです。

当時、うつ状態・無職・貯金を切り崩して生活している人間 という、そこそこヤバい状況だったのですが、
「人生でこれ以上後悔したくない」っていう気持ちもあり、バンビをおうちにお迎えしようと腹を括りました。
買わない後悔より、買った後悔を選ぼう、と決めたのです。

というわけで、またもや川崎のDEAN & DELUCAへ向かい、念願のバンビグラスを手に入れました。
帰り道に割れないかヒヤヒヤでしたが、無事におうちに連れ帰ることができました。

バンビで飲むビールの、なんと美味しいこと。

いつも使っていた、少し厚めのガラスで出来たグラスで飲むより、苦みが薄く感じるのです。
(ちなみに、マグカップで飲むビールってめっちゃ苦く感じるんですよね。なんでだろう。)

その日から、毎晩バンビで食卓を彩る日々となりました。
お酒を飲む日はお酒を、お酒の気分じゃない日にはトマトジュースを。
グラスひとつでこんなにも幸せになれるんだなぁ…と、ちょっと感動しました。

それから早数年。
案の定数回グラスを割りました。

割るときは、心が不安定で、食器を洗うにも手がおぼつかないようなとき、という傾向が見えてきました。
割ってしまうとやっぱりショックは大きいものの、その後に、
「あ、今グラスが割れて、厄落としされたかも…。」
っていう気持ちが出てきたのが、新しい発見でした。

バンビグラスが割れるときが、人生のステージが変わるとき。
私にとって、どんどん思い入れの深いグラスになっています。

ということで、先日もグラスを割ってしまったので、新しい子をお迎えすることにしました。
これまでは、木村硝子店さんの直営店(東京都文京区)で購入したり、近所のセレクトショップに置いてあるのを見つけて購入したりしていましたが、
新型コロナウイルスの流行でおでかけするのも控えていたため、オンラインショップでの購入を検討しました。

検討したんだけど、オンラインショップで売り切れてたんですよ…!

「あーーー、そうだよね、ハンドメイドのグラスだし、コロナ禍の影響も少なからず受けてるよね…」と思い、数日の間、バンビグラスのない日常を送っていたのですが、
やっぱりお酒やジュースを飲むときにバンビグラスが恋しくなってしまう!
新しいお酒を買うたびに「これ、バンビで飲んだら絶対もっと美味しいのに!」って思ってしまう!

もういてもたってもいられなくなって、不躾ながらメールで「今後、入荷の予定はございますでしょうか…?」とお問い合わせを送りました。
そうしたらすぐお返事をいただけまして、「オンラインショップへの入荷はまだ時間がかかりますが、直営店には在庫がありますよ」とのことでした。
これはもうオンラインの入荷を待たないですぐに直営店にお迎えに行かなければ…!と、すぐおうかがいしました。

直営店にうかがったのは、今回で2度目。
薄くて綺麗なグラスがいっぱい置いてあるので、「割らないような振る舞いをしなきゃ…」と緊張してしまいますが、その緊張を上回る高揚感。
美しいグラスがたくさん置いてある空間、背筋が伸びます。

オンラインカタログで見て気になっていたグラスも展示してあったので、手に取って眺めることができました。
最高…最高です…今度引っ越しして今より広いキッチンのあるお部屋になったら絶対欲しい…本当に美しい…。

お取り置きしていただいたバンビグラスを受け取り、大事に大事に抱えて、ホクホクと帰りました。
今回お迎えした子で4代目になります。
割りすぎだよね。自分でも思う。だけど何回割ったってずっとバンビグラスが使いたい。

人生において、「割れること」を前提として食器を買ったのはバンビが初めてです。
割れない方がそりゃいいですし、割れたらまた買えばいいやという安易な気持ちなわけではない。
「割らないように気を付けて大事に扱うけれど、いつかは手放さなきゃいけない覚悟を持って使う」
という思いを持って迎える食器に出会えたことは、私の感性をより豊かにしているなぁ、と思います。

最初の頃は「こんな高い食器、自分には不相応かもしれない…」という気持ちもあったけれど、
それを追い越して、「バンビで飲むお酒は本当に美味しい!」という感動を日々感じます。
「自分を大事にする」ってよくわかんないんだけど、バンビでお酒を飲んでるときはとっても幸せ。
それが日常となっている人生、とてもよいものです。

1つの食器に一目惚れして、
「割れてもいいからこのグラスを使おう」という決意を持てて、
「腹を括る」という感覚を味わわせてくれて、
「美しいものを日常遣いできる人生であろう」と思わせてくれて。

バンビグラスが家にあるという幸福感と、
バンビグラスを使ったときの幸福感と、
それが私の日常である、という幸福感。

バンビがあることで、私の人生と感性はより豊かになりました。
あのとき、うつ状態の私が目にした繊細な食器は、日々の幸せと覚悟をずっと思い出させてくれる大事なアイテムになりました。
こんな素敵なものがある世の中なら、もうちょっと楽しく生きてみよう、と思える食器です。
これからも大事に大事に使っていきます。

以上、木村硝子店の「バンビ」への愛を一方的に叫ぶ回でした。
今日もこれからウイスキーの炭酸割りを飲もうと思います。
乾杯!